鹿野政直 Masanao Kano
Profile
鹿野政直(かの・まさなお)は1931年、大阪府生まれ。
1953年、早稲田大学文学部卒業。同大学大学院を経て、’58年から’99年まで、早稲田大学文学部に教員として勤務。早稲田大学名誉教授。
日本近現代の思想史家として「近代とは何か」を問い続けてきた鹿野は、女性史研究にも深く関わってきた。『現代日本女性史――フェミニズムを軸として』(有斐閣、2004年)で分析の主軸に据えたフェミニズムについては、「20世紀におけるもっともめざましい思想運動・既存の文明への挑戦の1つであり、それゆえに社会運動・政治運動としても展開した」と評価し、近現代日本の思想史という大きな文脈にフェミニズムを位置づけた。その一方で、戦後日本の民衆史研究を牽引してきた鹿野は、事件史や政治史を重視する国家中心の歴史からは見えてこない、女性たちの日常性の次元から見えてくる問題を丁寧に描き出してきた。また、鹿野は「男性中心的」と言ってよい日本近現代史の分野において、女性の声に注意深く耳を澄ませてきた数少ない男性の研究者であるという点でも重要な人物である。男性が女性史に踏み込むことに対する自制のようなものを持ちながらも、幼少期から「家」に対する問題意識を持ち続け、『戦前・「家」の思想』(創文社、1983年)を発表した。さらに、『兵士であること』(朝日新聞社、2005年)においては、明言はしていないものの、男性史研究の萌芽のようなものも見られる。
このように鹿野は、日本の戦後歴史学における重要な女性史研究者の一人であるだけでなく、男性性への問題意識を持ち、さらに1980年代以降日本の女性史研究にも大きなインパクトを与えたジェンダー概念に対する問題提起も行ってきた。
(執筆担当:中村江里)